季刊 産廃NEXT 秋号 掲載記事
特集 台頭!登場!女性リーダー
次代の業界創造へ、新たな力
近年、産業廃棄物処理業界は2代目への事業継承の流れが顕著となっ
ている。戦後の高度経済成長時代に身を起こし、産廃業界を盛り立て
てきた親世代は徐々に去り、20~30歳代の若手リーダーの活躍が目立
つようになってきた。その流れのなか、事業継承は必ずしも男性とは
限らず、女性の進出も増えてきた。業界の企業総数からすれば、まだ
パーセンテージは低いのかも知れないが、従来の延長線上ではないモ
ノの見方や感性を生かした経営に期待が集まる。かつて、ごく稀に存
在した産廃業界の女性トップは「男勝り」といわれるタイプが多かっ
たように思う。ところが現在では、女性の特性を充分に活かし、発揮
しつつ背伸びをせず会社の指揮をとるタイプが多いような印象が強く
なっている。今回の特集では現在、業界で活躍中の各地の女性リーダー
にインタビュー、トップとして立たれるに至った経緯、経営に懸ける
思い、将来にわたる経営ビジョンなどを語って頂いた。
昌和プラント 代表取締役 廣木直江
地元と顧客、同業をまわり、社員の声を聞く
分析強化、順次レベルアップへ
有害物を処理できる貴重な受け皿
● 記者
神奈川県という産業廃棄物の大量排出地域で、なおかつ処理業者数も多い
厳しい市場で頑張り続けて現在に至る訳ですが。
○ 廣木
産業廃棄物処理事業に携わるようになったのは、もともとは、前社長だっ
た私の父が、知人の依頼で、処理施設を持っていた地元の業者から会社
経営を引き受けたことがきっかけでした。
その後、当時、収集運搬事業を手かけていた現在の会社を買い、現在に
至ります。会社としての設立は1973年ですが、前社長がオーナーに就任し
たのはもっと後になります。産業廃棄物処理事業を総合的に手がけたいと
考えていた父ですが、まずは中間処理施設の計画に着手しました。
● 記者
計画は予定通り進められたのですか。
○ 廣木
ご承知のように産業廃棄物処理事業ですから、簡単に進められたわけでは
ありません。
前社長のリーダーシップと社員の力もあって、収集運搬事業はうまくい
ったようです。1994年には収集運搬に係わる積替え保管の許可を取得し、
現在の厚木工場(神奈川県愛川町)がある場所で廃酸、廃アルカリ、廃油
等の積替え保管、やや離れた場所で廃プラスティック類等の積替え保管を
始めて事業の効率化を図ることにしました。
中間処理事業の計画はやはり難航しました。廃酸と廃アルカリ、廃油、汚
泥が対象で、モノによっては有害物を含むものを扱う処理施設を建てよう
というのですから、申請したからといってすぐに施設設備許可、処分業許
可が取得できるものではなかったのです。これらの許可を取得して事業を
始められたのは2004年でした。
組織と責任を明確化、風通しの良い社風に
● 記者
まさに、その頃に社長に就任された訳ですが、産業廃棄物・特別管理産
業廃棄物の廃酸処理、廃アルカリ処理、汚泥処理、廃油処理など高レベル
の経営や技術が必要な企業を継ぐことに戸惑いはなかったですか。
○ 廣木
前社長の年齢もありましたので、私がやらざるを得ない状況でした(苦
笑)。というよりも「やってみよう」と思ったんです。すでに当社の社員
として主に経理などの仕事に携わっていたので、事業の内容や社員のひと
りひとりについては知っていましたので。
ただ、前社長から「この業界の会社経営は女性には難しい」とも言われ
ました。それは、私もわかっていたつもりです。時期もバブル崩壊から長
引いた景気低迷の最中という経営環境でしたので、簡単ではないことも承
知していました。「会社を引っ張っていこう」と大それたことではなく、
自分にできることからやってみようと考えました。そのような肩を張らな
いやり方は、社員にも自然と受け入れられたと思っています。
● 記者
「自分にできること」ですか。
○ 廣木
経理的な面についてはだいたいわかっていましたが、企業経営や化学系
産業廃棄物の処理技術まで熟知していた訳ではありませんでした。今も勉
強の毎日です(笑)。しかし、会社として改善すべき部分はあるし、社員
一同で取り組めばそれは可能だと思いました。社員として働いていた頃か
らちょっと気になっていたのが、会社の雰囲気でした。前社長は細かいこ
とまでは指示することはなかったので、それぞれの社員は職人のように自
立して働いていました。しかし、前社長は会社を自ら仕切っていくタイプ
で、社員にとっては改善すべき点を感じながらもお互いに意見を言いにく
い場面がありました。まずは社内からと考え、会社を部署に分けてそれぞ
れに責任を自覚してもらうと共に、意見を言いやすくするために組織を再
編成しました。私自身も勉強しながら会社経営をやっていく立場でしたか
ら、社員からの意見が必要だったのです。まだまだ社員ひとりひとりの思
いをつかめているとは思っていません。今後も努力していきます。
● 記者
経理としてみるとどうだったのでしょう。
○ 廣木
さらに収支を細かくチェックするようにして”丼勘定”から脱皮し、
将来を見据えた経営、資金調達をもっと考えるよう心がけました。経営環
境が厳しさを増す中で、まずはコスト削減を図ることにしました。
許可申請時に前社長が計画した処理技術と、許可取得時に必要とされて
いた技術は時代の変化とともに変わっていました。当社の処理技術も「少
量多品種・難処理」に必ずしもフィットしていないことを念頭に置きつつ
、まず自社でロットごとにサンプル分析を行い、処分を外注頼みにするの
ではなく、油水分離、凝集沈殿など自社で処理できるものは処理する、と
いう基本に立ち返りました。さらに中和、脱水後の汚泥についてもリサイ
クルできるものはリサイクルにまわすこと、処分も様々な同業者とお付き
合いすることにしました。
経営環境は厳しさを増すばかりで、売上と利益の両方伸ばすのは難しい
と思いますが、少なくとも安定した経営ができる利益を確保するようにし
ています。
地域に根ざし、安定した企業を目指す
● 記者
顧客である排出事業者、協力できる同業者とのつながりも大事ですね。
○ 廣木
これも当社が強化しなければならない部分でした。私は前社長のバイタリ
ティーは学びつつ、経営者としてはまだ新米ですので、顧客や同業者の方
々にまずは挨拶にまわるようにしました。(社)神奈川県産業廃棄物協会
の会合にもこまめに参加するようにしています。単なるお付き合いではあ
りません。事業のパートナーとして挨拶にまわることは努力を惜しまなけ
ればできることです。実際、顧客の方々に挨拶に行くと、結構覚えていた
だけるんですね(笑)
● 記者
これからが勝負ですね。
○ 廣木
頑張ります。産業廃棄物協会青年部で取り組んでいる「CO2マイナス
プロジェクト」にも参加することにしましたが、同業の方が熱心なことに
驚きました。情報を先読みすることの重要性を知るとともに、経営者とし
てはある種の危機感も感じました。これからもできることから着手するこ
とにしました。地域のみなさん、社員から「しっかりした会社」「信頼し
てもらえる経営者」と思っていただけるようになりたいと思います。
●今後もご活躍を期待しています。
本日はお忙しいところありがとうございました。
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